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仙台高等裁判所 昭和31年(ラ)24号 決定 1957年3月13日

申立人 増田久(仮名)

相手方 増田正(仮名)

主文

原審判を取り消す。

本件を福島家庭裁判所若松支部に差し戻す。

理由

本件抗告の理由は別紙記載のとおりである。

案ずるに、原審に現われた資料によれば、抗告人は相手方の推定相続人であるが、家業である農業にあまり精を出さず、競輪で多少の金員を費消したり、又相手方の同意がないのに相手方名義の山林を売却したり、あるいは相手方の銀行預金を担保にして無断相手方名義で十数万の借財をしたりして自己の事業上の失敗による負債の埋め合せに充て、そのことが原因でしばらく姿を隠していた事実が認められなくはないが、一方当審で提出された抗告人作成の陳述書と当審における抗告人本人の審尋の結果によれば、抗告人は苦しい家庭事情を訴えて右事実につきそれぞれ一応取り上げてよい弁解をしているのであつて、更に相手方を含む抗告人方の家庭事情、生計関係等につき調査をするのでなければ右事実だけでは抗告人に民法第八百九十二条にいう著しい非行があるとは軽軽に断定し難い。原審判は結局不当として取消を免れない。

よつて家事審判法第八条、家事審判規則第十九条第一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 石井義彦 裁判官 上野正秋 裁判官 兼築義春)

(別紙)

抗告の理由

一、原審判によると抗告人は怠惰者あるいは浪費者であり且つ相手方の印章を勝手に使用し多額の借財をして家出したものであると認定されたが、右は全部事実に反することである。

二、抗告人の父である相手方は養蚕教師として転々他出し家業である農業に従事しない俗にいう農村の遊び人であつた。そのため抗告人は少年当時より病弱な母の手助をしながら農業に従事し、高等小学校を卒業しただけで家業の中心となつて働かざるを得なかつた。そんな関係で抗告人は若い時から家政一切を司つて今日に至り、その間部落の信望を得て部落農事実行組合長等幾多の役職を務めて来たものである。

三、相手方は変質的性格で部落内でも心から交際するものはなく寧ろ恐がられているくらいであり、抗告人に対しても自己の意のごとくならないと粗暴な振舞をし、遂には暴力を振うようになつたが、親に抗することもならず、周囲の者の勧めもあり、又母も心配するので、暫く家を出たこともあつた。

四、又印章使用の件も相手方は昭和二十八年二月抗告人に家政を任して置けないからと称してこれを取り上げ、そのかわりそれまでの借財はこれで支払えと予め印章の使用を抗告人に委ねたのであつて、そのことは母もよく承知していたことである。

五、なお抗告人は原審においてよもや廃除の審判を受けるとは考えなかつたし、親戚、友人等も親のいうとおりにしておればよいというので、ことの真相を強いて明らかにしなかつたのである。

以上の次第で原審判には不服であるので本件抗告に及ぶ。

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